リレーインタビュー【保存版】

【第4回】谷山病院 福迫剛院長

2022.11.11

「精神科救急地域拠点病院」の 指定を受けて

谷山病院は昨年、鹿児島県の「精神科救急地域拠点病院」に指定されました。24時間365日対応できる能力が、私たちの一番の強みと言えます。病院の能力的に、と言いますと、まず患者さんの受け入れ体制が整っていることを挙げたいと思います。例えば当直体制ですが、当直医師と、病棟とは別に看護当直、事務当直を置いています。医師以外に、病棟業務と兼務せずに当直2名体制をとるのは、県内の精神科では他にあまり例がないと思います。

地域拠点病院に指定されたといっても、急患が増加傾向というのでなく、谷山病院としては従来通りの業務に変わりはありません。精神疾患によってもたらされる患者さんの苦痛が少しでも軽減されるように、という使命を果たすべく、24時間365日体制の医療提供を続けます。

↑上空から見た谷山病院の全景


退院支援の強化と地域移行

日本の精神科医療の大きな課題の一つが、入院医療の縮小化です。退院の促進、地域生活への移行、社会復帰や就労支援には、私たちも長年力を注いできました。できるだけ多くの患者さんが地域の中で安心して生活していけるよう支援していくことが、私たちの願いです。

平均在院日数を見ますと、平成26年の全国平均281日に対し、谷山病院は212日です。日々の努力の積み重ねが、長期入院の解消につながっています。自負できる数値です。病床稼働率は近年90数%で推移していますので、平均在院日数の減少はつまり、入院患者さんの回転が速くなったということ。それだけスタッフが頑張ってくれているということです。今後も特別に新しいことに取り組むのでなく、これまでの流れ通り、継続して退院支援・地域移行に力を入れていきます。


急性期治療の推進

急性期治療病棟を開設して10年になります。鹿児島県内では先駆けで、同じ慈愛会の奄美病院に続いて当院が40床を開設しました。早期の手厚い医療提供で早期の症状改善を目指し、入院の長期化を防ぐ狙いがあります。長期在院主体の運営から新たな取り組みでしたので、開設に先立ち、大阪の病院で先例を学んで、運用の参考にしました。急性期治療に力を入れるというのは、スタッフが十分そろっているからこそできること。当院の強みの一つです。慢性期病床の集約化と急性期化が今後の精神科病院の方向性となりますが、病院の能力にも限界があります。無理をしては疲弊してしまいます。できる範囲内で、無理はせずに、急性期治療中心の診療体制を確立していければ、と思います。


受診希望の多い「認知症疾患医療センター」

鹿児島県指定の「認知症疾患医療センター」の機能も、谷山病院が誇る強みです。私がセンター長、副センター長は隣接する介護老人保健施設「愛と結の街」の黒野明日嗣施設長です。黒野先生にはメモリーケア外来も受け持っていただいています。

患者さんを診るのは当院の医師ですが、相談には専門知識を備えた精神保健福祉士(PSW)や看護師が対応します。黒野先生は講演活動を通じて知名度が高いので、県内各地から受診希望が相次ぎます。医局全体で対応するとはいえ、認知症の鑑別診断も、メモリーケア外来も、時間を要しますので、一日に対応できる患者さんの数が限られます。平成21年のセンター設置以来、相談や受診件数が増加の一途でしたが、近年、センター指定の病院数が増えて、利用者が減少に転じました。数カ月単位で予約待ちとなるケースもあったことを考えると、むしろ適正規模に落ち着いたとみています。(写真は認知症疾患医療センターが主催した平成27年度介護従事者向け研修会の様子)


アルコール依存症治療

壽幸治副院長を中心に、多職種でアルコール依存症のチーム医療体制を整えています。依存症治療に詳しい鹿児島国際大学の岡田洋一准教授が外部講師として長年チームに関わってくださり、学習会、家族会などの治療プログラムが多彩で充実しているのが特長です。アルコール依存症の経験や悩み、思いを自由に語る「アルコールミーティング」が家族的な雰囲気で良い、と参加した患者さんから聞いたことがあります。治療プログラムに良さを感じて、谷山病院を治療の場に選ぶ患者さん、ご家族がいらっしゃるのは、治療チームにとってもやりがいにつながるのでは、と思います。


新病院への想い

今村病院分院の精神科とは、従来から密に連携を取っています。谷山病院の患者さんが、身体的な疾患の治療を必要とする場合に分院精神科に紹介し、病状が落ち着いたらまた当院に逆紹介、となります。長期入院患者さんの高齢化に伴い、身体合併症治療が必要な方が増えています。建設中の新しい病院でも精神科の病床、診療体制に変わりはないようですので、引き続き連携を図っていきたいと思います。


鹿児島県で唯一の精神科結核病床

精神症状があって結核の恐れがあると、谷山病院が受け入れない限り、鹿児島の患者さんは一番近くて熊本に行くしかありません。宮崎には精神科結核病床がありません。県内の精神科医療機関で唯一、谷山病院が持つ5床の結核病床は、なくてはならない病床。今後も維持します。

現在の結核治療は、隔離入院となっても、排菌されれば1,2カ月で退院して自宅での服薬治療に移りますが、精神疾患があると服薬管理が難しいので、いったん入院すれば半年から一年の入院加療となります。

慈愛会第2代理事長の故・今村一英先生は昭和初期、10代半ばで結核を患い、特効薬のない時代とあって16年もの闘病生活を余儀なくされたそうです。一英先生は晩学で医師免許を得て、谷山病院の院長も経験されました。そういう経緯も含め、結核の患者さんはしっかりと診ていく使命感を持っています。

↑結核病床のあるA2病棟