リレーインタビュー【保存版】

【第7回】鹿児島中央看護専門学校 大保まり子副校長 / 南ひとみ副校長

2022.11.11

判断力・実践力・主体性を育む教育体制

大保副校長

本校の強みとして、同じ法人内の臨地実習施設に恵まれていることを第一に挙げたいと思います。看護教育において、実習はとても大きな位置づけです。絶えず進歩する医療の世界で、看護職に求められるものは、臨機応変に判断し行動できる能力だと思います。学校で知識や技術、態度をしっかりと身に付けて、実習では現場の看護師が常に変化する状況に応じてどう判断しどのように看護しているか、その姿に触れ、対象の想いや自身の実践から看護を学ぶことが重要になります。より多くの体験が、学生の判断力や実践力に結び付くと思います。体験を充実させるには、実習施設の深いご理解とご協力が欠かせません。

本校では昨年から、慈愛会の看護部支援室と合同で「臨地実習指導者会議・研修会」を始めました。各施設の看護部長、師長、臨床指導者の方々と本校の教員が、「主体的に行動できる看護職を育てるにはどうすればよいか」などをテーマに協議し、協同して学生を育てる環境づくりです。同じ法人だからこそ私たち学校側の要望を聞いて頂けますし、現場がどういう看護師を求めているか、貴重な生の声を聴くこともできます。多くの専門科をもつ実習施設に恵まれて、実践に裏付けされた充実した実習を提供できること、現場と一体となって一人ひとりの学生が大事に育てられ、教育効果が上がる、ということが本校の大きな強みです。


南九州唯一の存在意義

南副校長

2年課程(通信制)看護科は南九州で唯一本校だけが開設しています。例年、宮崎や熊本、沖縄からも新入生を迎えます。准看護師養成所に入って准看護師免許(都道府県知事の発行)を取得した後、更に看護師免許(国家資格)を目指す場合、引き続き進学できる専門課程を持つ養成所もありますが、宮崎など近隣の各県では進学コースの設置が少ないので、多くの場合、養成所卒業後そのまま准看護師として就職、という選択になります。本校の通信制看護科は、働きながら国家資格に挑戦しようとする准看護師さんの受け皿になりますので、存在意義は大きいと思います。

当科への出願には現在「准看護師免許取得後10年(120ヶ月)以上業務に従事した方」という要件がありますが、就業年数は今後段階的に引き下げられる見込みです。本年度の入学生は、40年余りの経験を積んだ60代の方から20代まで、幅広い年齢層となっています。年齢の高い学生さんは「看護師として働くのが長年の夢だった」「現役のうちに国家資格を取りたい」などの熱い思いで進学を決意される方が多いようです。皆さん高い志をもって一生懸命に勉強され、本当に頭が下がります。


地域医療への貢献

南副校長

当科は開設から丸10年。今春までの修了生は1505名、うち1361名が国家試験に合格しました。准看護師から看護師へのキャリアアップをこれだけ多く実現できて、地域医療の質の向上に役立てたのではないかと自負しています。「物事をきちんと根拠立てて考えられるようになった」と、勉強することの大切さ、楽しさに気付いて、卒業後さらにケアマネジャーなどの資格取得に挑戦する方も多く、頼もしく思います。

入学者の平均年齢は40歳前後で推移しており、子育て世代が多数を占めます。仕事と勉強の両立は大変ですし、面接授業、実習、子供のPTA、学校行事で職場の公休が埋まってしまう等、時間のやりくりに頭を悩ます方も少なくありません。それでも勉強に励んで、国家試験に合格すると皆さん「進学して本当に良かった」と感激されます。「仕事に一層やりがいを感じるようになった」と聞きますと、私たちも教員冥利に尽きます。

大保副校長

3年課程の国家試験合格率は、今春を含め過去6カ年で4回、100%を達成しました。高い水準を維持しているのが本校の誇りです。鹿児島県内への就職率もここ5年間90%超で推移しています。鹿児島の地域医療を支える人材の育成・確保に、今後も貢献していきたいと思います。


ポートフォリオ学習

大保副校長

特色のある取り組みの一つに「ポートフォリオ学習」があります。ポートフォリオとは、紙ばさみという意味。実習の記録や、その時々の疑問点について調べたこと、調べて分かったことを踏まえて、実践したこと、体験したことをリフレクションし学びを深めたこと、そういう記録をファイリングして、結果、その積み重ねの中に自分の成長を実感することができる、という学習方法です。学生の主体性が問われます。

実習では従来、「看護過程の記録」という記録様式を用いてきました。長年看護教育の場で主流となっています。受け持ち患者さんの全体像を把握し、根拠のある看護を行うのに有効な手法なのですが、学生は記録用紙を埋めることに必死になり、時間をかけ「実習はきつかった」で終わってしまう、それがいま看護教育の中で問題視されています。もっと対象に想いを寄せ、看護のやりがいを見出せる、看護の本質を実感できる実習にしたい、というのが、ポートフォリオを導入した最大の理由でした。ポートフォリオ導入から5年を迎えますが、長年の慣行を転換するのはなかなか難しく、いま鹿児島県内の看護学校で本格導入しているのは本校のみ。いくつかの学校が少しずつ取り入れつつあるようです。学生にアンケートを取ったところ、ポートフォリオ導入前との比較で学習時間全体は変わらないのですが、提出物の記録に要した時間が減り、その分、自己学習の時間が増えた、という結果が得られました。導入して、主体的に学ぶということに効果があったと評価しています。

もう一つ、特色のあるカリキュラムに「民泊体験」があります。いま医療政策において、病院から地域へ、という流れがあります。地域で高齢者の方がどういう生活をされているか、また、自助共助公助の仕組みの中で自分たちがどういうふうに役割を果たしていけるのか、などを学ぶ狙いです。今年本格導入したばかりの研修ですが、看護学校でこのような取り組みは県内でも数少ないようです。生活を実感しコミュニケーション能力を高めるなど、社会人基礎力にも通じるものと期待しています。


看護師への夢 経済面でバックアップ

南副校長

慈愛会に今年、勤務を継続しながら通信制で学ぶための奨学金制度ができました。経済的な理由で進学に踏み切れない准看護師さんもいると思いますので、とてもありがたい制度です。

大保副校長

学生の91%が何らかの奨学金制度を利用しています。卒業後、慈愛会が経営する病院施設に勤務する意志のある学生を対象とする「慈愛会奨学金」は、学生の85%が利用しています。経済的理由で進学を断念しないように、という慈愛会の理念に基づいた独自の奨学金制度も、本校の魅力の一つではないかと思います。

本校3年課程が平成26年10月に、厚生労働省の「専門実践教育訓練給付制度」の対象講座に指定されました。離島を除く県内では唯一の指定校です。
(給付の詳細→http://www.kachukan.ac.jp/three-years-course/tuition.html#p04)

指定前は定員40名に対して、社会人入学生が10名程度でしたが、平成28年度は22名と、格段に増えました。影響の大きさに驚いています。


新病院への想い

大保副校長

今村病院分院は実習施設として関わりが深いので、「急性期総合型病院」となり、急性期の看護をより専門的に学べることがありがたいです。これから先、医療が機能分化していく中で、病院の特徴が特化していくと、そこで働く看護職も病院の特徴ごとに看護の特徴を学んでいかなくてはなりません。新病院でレベルの高い医療、看護に触れることができることを心待ちにしています。また、学生を送り出す立場として、今村病院分院で働く多くの卒業生にますます活躍してほしいと願っています。日々忙しいとは思いますが、看護にやりがいを感じて、仕事に誇りをもち続けてほしいと思います。

南副校長

通信制は規模の小さな医療機関に勤務している人が多く、老健施設で働く准看護師さんもいますので、大きな病院での実習を通してたくさんの学びを得ています。実習をきっかけに、「今までずっと単科で働いてきたけれど、大きな病院、急性期で頑張ってみようかな」という気持ちが芽生える学生さんもいます。今村病院分院が新しく診療科も病床も増え、より高度な医療や、救急の場面なども学ぶ機会に恵まれるのはとても刺激になり勉強になると思います。新病院で一層充実した見学実習ができることを期待しています。