リレーインタビュー【保存版】

【第10回】慈愛会クリニック 今村尚子院長

2022.11.11

慢性疾患に適したチーム医療

慈愛会クリニックの強みは、スタッフみんなで患者さんをみる、というチームワークの良さだと思います。治療に関することは医師が行いますが、糖尿病の治療は、単に薬だけで、というわけにはいきません。生活の問題、特に食事や運動が大きく影響しますので、管理栄養士や看護師が専門的な指導を繰り返し、患者さんご本人が適切に自己管理できるようになることが重要です。しっかり納得していただかないと、薬を飲まなかったり、食事療法も中途半端になったりするので、患者さんとの信頼関係がとても大切です。

慈愛会クリニックは非常勤の医師3名を含めて16名の小さな所帯で、患者さんのほとんどがリピーターの方。顔の見える関係づくりができていると思います。スタッフが糖尿病のこと以外でも、生活上の悩み、困っていることなど、さまざまな相談を受けて、診察室では分からないことに気付いてくれるので、診療する上で非常に助かります。診察室の中では話しづらいことでも、顔馴染みのスタッフには話しやすいのかもしれませんね。小さいクリニックならではのまとまりがあって、スタッフ間の情報共有も非常によくできています。慢性疾患の患者さんとの関わり方として、いいチーム医療のかたちができていると思います。


高齢化への対応

糖尿病の患者さんは社会全体でも鹿児島でも増え続けています。また、患者さんの高齢化も進んでいます。クリニックを開設した2005年当時、日ごろの診療で認知症を意識することはさほど多くなかったように思いますが、ここ数年認知症の症状のある患者さんが増えました。自己注射が必要なのに忘れてしまう、というパターンが目につきます。ほかにも、長く通院されている患者さんが受付で保険証を出す際に手間取ったり、検尿を出す場所を失念したり、そういう異変にスタッフが気付いて、認知症の早期発見につながることもあります。こういう場面でも、スタッフとの距離の近さ、チームワークの良さが活きます。情報共有ができてこそ、患者さんの状態に応じた適切な対応がとれます。治療自体について言いますと、注射が進化して、入院せずに訪問看護や家族への指導で対応可能な場合もありますので、ご本人とご家族の考え、生活背景にも配慮しながら、より患者さんに合う方法をとっていきます。


療養指導のレベルアップを目指して

2015年に始まった「鹿児島県地域糖尿病療養指導士(KLCDE)」の認定制度で、当クリニック内で3名が合格しました。専門知識を得ることで自信がついたようです。療養指導をより充実させる取り組みとしては、既に日本糖尿病療養指導士(CDEJ)の制度があり、当クリニックでも3名が取得していますが、様々な条件があって取得のハードルが高く、受験も九州では福岡まで行かなくてはなりません。KLCDEは講義もテストもインターネット上で実施されますので、取り組みやすい良い制度だと思います。

このところ、「費用がかかるから入院はしたくない」と外来での通院治療を希望される方が多く、外来での自己注射導入が増えている分、指導にあたる看護師の役割がますます大きくなっています。KLCDEの認定取得に向けた勉強で専門知識を身に付けて、それがダイレクトに患者さんとのかかわりに活かされて、クリニックのレベルアップにもつながっていると思います。


患者さんへの多様な支援

患者さんの教育ツールとして活用している「糖尿病カンバセーション・マップ™」は、月1回ほど、定期的に場を設けています。ファシリテーターの資格を持つ管理栄養士が適切なタイミングでコメントして、患者さん自身の病気に対する理解、知識の向上を促します。患者さん同士の交流の場にもなって、話が弾むようです。糖尿病にまつわる話をお互いにする中で、共感しあう部分も多いのかもしれませんね。

フットケアの体制も、前年度から充実しました。所定の研修に参加してフットケアを施行できるスタッフが現在3名います。壊疽がひどくなり足の切断に至るケースを減らしたい、無くしたいと切に思います。神経障害で感覚が鈍り、視力の低下も相まって、足の傷に気が付かないまま悪化してしまう場合がありますので、予防的意味合いも込めて、定期的に足を診るとともに、必要な方には十分なケアを実施していきたいと思います。


新病院への想い

すばらしい病院の開院に向けて、スタッフの皆さんは初心に帰って一歩一歩進んでいってほしいと思います。
6月から「今村総合病院」となる今村病院分院とは、電子カルテシステムの統合に向けて準備を進めています。患者さんが肺炎など起こして救急の対応が必要な場合に、分院の救急総合内科(ER)に受け入れを依頼することがあり、カルテが統一されて情報共有ができるのは非常にありがたいです。血糖コントロールができないという患者さんが分院からこちらに紹介されることもあります。お役に立つことができる場面があればぜひ、役目を果たしたいと思います。

糖尿病腎症への対応などで、腎臓内科との関わりも大きいです。鹿児島市で慢性腎臓病(CKD)の重症化予防を目指した医療連携ネットワークができて、診療医の先生がリスト化されましたので、患者さんが通院しやすい最寄りの医療機関を探して紹介しやすくなったのですが、「治療は慈愛会の病院で」と希望される患者さんもたくさんいらっしゃいます。当クリニックのバックに総合病院があるのは非常に心強い様子が伺えます。糖尿病の治療で入院が必要になれば、今村病院とすぐに連携が取れますし、そういう連携体制をよくご存知の患者さんも多いです。今村総合病院がより高度で専門的な医療を提供することが、私たちのクリニックの人気、選ばれる理由にもつながると思います。