リレーインタビュー【保存版】

【第5回】介護老人保健施設 愛と結の街 黒野 明日嗣施設長

2022.11.11

心豊かに生きていけるように

―認知症の専門家で、講演に引く手あまたの黒野先生。神経内科医としてのこれまでの歩みを教えて下さい。

講演は年間40~50回引き受けます。認知症に深くかかわるようになったのは平成15年6月に愛と結の街に施設長として着任して以降のことです。着任以前、鹿児島大学医学部から派遣され愛と結の街の非常勤医を務めた時期がありましたが、大学では電気生理学の分野に軸足を置き、スウェーデンへの留学も経験しました。研究や臨床の現場と老健では、医師のスタンスが大きく違います。老健では〝病気を抱えた患者さんを診る〟ことにとどまらず〝病気を抱えつつ生きていかなくてはならない人たちの生活をみる〟のが仕事。その〝生活をみる〟仕事に良さを感じ、38歳でこの世界に入りました。


家族の疲弊を目の当たりにして

着任当時、愛と結の街の入所フロアは2階・3階の各50床を症状の区別なしに使っていましたが、さまざまなトラブルが増えてきたため3階を「認知症専門棟」としました。そこで一旦、ご利用者の療養環境は改善できました。ところがご家族に目を向けると、入所までの生活、介護でクタクタでした。老健施設として、入所の希望を受け入れるだけでよいのか、入所の前段階からかかわるべきではないか―。そう考え、認知症の診断と治療のための「メモリーケア外来」を立ち上げました。

診察には1人1時間は必要。週2回の外来で担当できる患者さん数は限られ、数カ月先まで予約が詰まっていますが、患者さんとご家族がともに心豊かな生活を送れるよう、一緒に悩み考えていけたら、と思います。


―「心豊かな生活を目指す」の言葉は愛と結の街の施設理念にも掲げてあります。自身の「心豊かな生活」をどう実現していますか。

家族で過ごす時間を大切にしています。最近のお気に入りはBBQ。使い勝手のいいコンロに巡り合えて、週末のBBQが一層楽しみになりました。親子3世代で食事をともにして話も弾みます。こんな時間の過ごし方を大事にしたいと思っています。

本もよく読みます。最近は役職柄ビジネス系が多いです。読み込んで、考える作業が好きです。読んだ内容を頭にインプットして、トラブル解決の発想を得たり、自分の経験したことを交えて職員に講話で伝えたりします。本を読むと、何かしら得るものが必ずあります。


―老健の施設長に加え、隣接する谷山病院の認知症疾患医療センターの副センター長、公益財団法人慈愛会の企画部長も兼任します。頭の切り替え方、仕事の流儀を教えて下さい。

よく「意外だ」と言われるのですが、悲観論者なんです。後ろを振り返りがちで、マイナス思考。考えすぎるきらいがあります。それではいけない、とりあえずやってみよう、と思考回路を意識して変えるようにしています。うちの格言なのですが、「前進あるのみ」です。

仕事には意義付けが不可欠。職員にも、せっかく働くなら、流れ作業でなく、よく考えて仕事をしなくてはと話しています。考えることが仕事の価値を増し、ひいてはスタッフの価値を増すと思っています。私自身、1人ですべてのポストの業務を全部は見られません。やるべきことを厳選して、割り振って、それぞれがよく考えて動き、ベクトルを合わせて前進していければ素晴らしい成果が手に入ると信じています。